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前十字靱帯再建術後に注意すべき!軟骨損傷が10年後の膝の状態に与える影響とは?
軟骨損傷があると、前十字靱帯再建術の効果は下がる?10年追跡で見えた膝の未来
【前十字靱帯再建術と軟骨損傷:なぜ関係があるの?】
前十字靱帯(ACL)とは、膝の安定性を保つために重要な靱帯のひとつです。スポーツ外傷などでこの靱帯が断裂すると、再建手術が行われることが一般的です。
しかしこの研究では、手術時に関節軟骨(かんせつなんこつ)に傷(=軟骨損傷)がある患者さんが、将来的にどういった膝の状態になるのかを、10年間にわたって追跡しました。
軟骨損傷には、表面だけが傷んでいる「部分層損傷(グレード1〜2)」と、骨に近いところまで深く傷ついている「全層損傷(グレード3〜4)」があります。これらの損傷があると、膝の痛みや動きの悪さが残りやすいとされてきましたが、本研究ではその影響を10年スパンで詳細に解析しました。
この研究の対象となったのは、ノルウェーとスウェーデンの全国規模の手術登録から抽出された、15,783人のACL再建術を受けた患者です。その中で、10年後のアンケートに回答した7,040人(約45%)のデータが解析されました。
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【10年後の膝の状態に差が!軟骨損傷の深さが影響】
研究では、患者の主観的な膝の状態を測る「KOOS(Knee injury and Osteoarthritis Outcome Score)」というアンケートが使われました。これは、痛み・症状・日常生活・スポーツ活動・生活の質といった5つの視点で膝の状態を数値化する方法です。
◆ 軟骨損傷があるとスコアは明らかに低下
軟骨に損傷がない患者では、10年後の平均スコアは全体的に高く、良好な結果でした。
* 一方で、部分層損傷(浅い傷)がある人はスコアがやや下がり、
* 全層損傷(深い傷)がある人では、すべての項目で明らかに低下しました。
たとえば、「スポーツ・レクリエーション」の項目では、
* 軟骨損傷なしの人:平均スコア 約70点
* 部分層損傷あり: 約65点
* 全層損傷あり: 約55点
と、大きな差がついていました。
さらに、「生活の質」に関するスコアでも、全層損傷の患者さんは他のグループと比べて明らかに劣っていました。
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【軟骨の治療はすべき?今後の課題と治療の選択肢】
この研究では、手術時に見つかった軟骨損傷の多くが「未治療」であった点も注目されます。
実際に、
* 治療なし: 約73%
* デブリードマン(損傷部分の清掃手術):約12%
* マイクロフラクチャー(骨に穴を開けて修復を促す手術):約5.5%
* その他の治療(モザイク形成術や細胞治療など):約1.4%
と、多くのケースで積極的な軟骨治療はされていませんでした。
◆ 治療してもしなくても結果に差は?
研究では、どの治療法が最も効果的だったかまでは判断されていませんが、これまでの報告からは「デブリードマンが短期的には良好な結果をもたらす」可能性があるとされています。
ただし、軟骨損傷の部位や大きさによって最適な治療法は変わるため、今後の研究でより明確なガイドラインの整備が期待されます。
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【まとめ:軟骨の傷は10年後に響く―患者さんと医師の情報共有が重要】
この研究から明らかになったのは、前十字靱帯の手術時に軟骨損傷があると、その後の回復に長期的な影響が出るという事実です。
* 特に全層損傷を持つ患者さんでは、10年後に「治療が失敗だった」と感じる割合が高く、一方で損傷がない患者の方が満足度も高い傾向にありました。
こうした情報は、術前の説明や治療戦略を立てる上で非常に重要です。
軟骨損傷は見逃されがちですが、「小さな傷が大きな結果を生む」こともあります。ACL再建術においては、靱帯だけでなく軟骨の状態にも目を向けることが、患者さんの長期的な満足につながると言えるでしょう。
【参考文献】
Kjennvold S, Ulstein S, Årøen A, et al. Effect of Focal Cartilage Lesions on Patient-Reported Outcomes After Anterior Cruciate Ligament Reconstruction: A 10-Year Nationwide Cohort Study of 7040 Patients. *Am J Sports Med.* 2025. doi:10.1177/03635465251350398
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